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栄養よりも腹を満たしたい管理栄養士

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本当に低賃金?保育園栄養士の一日

先日、介護士や保育士の賃金を上げることが報じられました。

news.yahoo.co.jp

政府は11日、介護職や保育士の賃金を月額で3%程度に当たる約9千円引き上げる方針を固めた。19日に決定する経済対策に盛り込み、本年度補正予算などを財源とする。看護師や幼稚園教諭の賃上げも検討している。

これを聞いて率直に
「栄養士は?」
と思いました。

介護士や保育士の務める介護施設や保育園には栄養士だっているし、得てして低賃金で働いているのに。

介護士や保育士の処遇については話題に上ることも多く、少しずつ改善がなされています。しかし同じ施設で働き、専門的な技能をもって利用者や子ども達の健康に寄与している栄養士の処遇についてはどうでしょうか。
「平成31年度賃金構造基本統計調査」によると、栄養士の平均年収は340万6000円です。(参考:
栄養士の給料・年収ってどれくらい?【2020年最新版】 | 栄養士のお仕事Magazine
栄養士は女性の多い職業なので他の職業に比べ結婚・妊娠等にやる離職率が高いことや、短時間労働者が多いことが平均年収の低さに表れているといわれます。
しかし栄養士の働く環境は病院や保育園での給食管理、メーカーの商品開発、公務員など多岐にわたり、それに応じて賃金に差があります。そのため栄養士間でも処遇に対する考え方がまとまらず、介護・保育ユニオンのような団体もできず、なかなか議論の場に上がらないのです。

ちなみに保育士の平均年収は364万4600円だそうです。
(参考:
保育士の平均給料は24万円!都道府県別の給与や給料を上げる方法│資格のキャリカレ
)
保育士も栄養士と同様に女性の多い職業ですが、「賃金構造基本統計調査」によれば栄養士は保育士よりも低賃金で働いていることになります。そこで栄養士の給料は労働に見合わない不当な賃金なのか、私の1日の仕事内容から考えたことをまとめました。

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ある保育園栄養士の1日のスケジュール

8:00  出勤、給食調理
多くの保育園では栄養士も調理員と一緒に給食の調理を行います。
特に年に1度しか出さない行事食や新作メニューを出すときは栄養士が調理員に指示を出してイメージ通りに仕上がるようにします。
献立によっては午前中に溜まった事務作業ができることもありますがごくまれです。

12:00 保育室に行き給食指導
子どもたちに給食を食べてもらえるよう指導をします。
また味付けや食事の大きさ・固さは適切だったのか、子どもたちの反応を見て確認します。
そして食べこぼしがないか、遊び食べを始めないか注意を配りながら並行して自分の給食を食べます。

12:30 下膳、洗浄・清掃

13:30 休憩
休憩時間ですが伝票整理や献立作成など事務仕事を進めることが多いです。
また献立によってはおやつの調理を前倒して進めます。

14:30 おやつの調理・配膳
園によって手作りにこだわるか既製品も使うのか方針が異なります。
おやつが配膳されるときも、必要に応じて保育室に行き食べる様子を確認します。

15:00 給食室の清掃

16:00 事務作業
伝票の整理や献立作成、発注作業などを進めます。

17:00 退勤(必要に応じて残業)


ざっくりこのようなスケジュールで過ごす栄養士が多いのではないかと思います。

このほかにもスポット的に
・食品や備品が届けられたら随時検収
・定期的な水質検査や設備の点検等保全管理
・保育園の行事によっては保育士との打ち合わせ
・来客応対、電話番
などもあります。

栄養士が保育園の行事にどれくらい参加するのかは園の方針によるので一概には言えませんが、栄養士も保育園職員の一員として何かしら参加することがほとんどで、その場合の打ち合わせは保育士の手が空く時間に合わせて行われます。(つまり子ども達の昼寝中や帰宅後である休憩時間や終業後

また来客応対や電話番ですが、これも園の方針によるのですが、私の知る範囲で保育士はほとんどその業務を積極的にしていない印象があります。なぜなら保育を最優先に行ってもらうためです。子どものお世話をすることが保育士のお仕事ですから、それ以外の保育園職員である栄養士だったり事務員が引き受けています。(とはいえ給食調理で忙しいときもありますので、急いで手を洗って電話機に飛びつくこともしばしば…。

保育園栄養士のここが大変

立ち仕事が多く肉体労働であること

給食現場で働くならば立ち仕事は避けられないでしょう。事務作業中心で雇用された栄養士であっても直営であれば調理師の欠員等で現場に入ることも十分あり得ます。
重たい鍋や食器カゴを持ち運んだり提供時間に間に合うよう素早く動くことも求められるので慣れるまで大変でした。

他業種との連携が多く板挟みになりがち

保育園であれば保育士や調理師、保護者などと連携して仕事をしますが、それぞれの要望を聞いて調整しながら給食を作ることが必要です。立場によって要望は異なるので、上手に間に立って物事を進める交渉術やコミュ力がないと詰みます。

休日数が少ない

基本的な休日は日曜と祝日で、月の半分くらいは土曜も出勤日です。年間休日数105日しかないのは正直きついです。

少数気鋭のチームであること

園の規模にもよりますが、栄養士の配置人数は少ないため急な病欠や欠員がでたときのフォローが大変という側面もあります。

保育園栄養士のここは良い

ヒトではなくモノを扱う仕事であること

保育士と協力して行事に取り組んだり給食指導をしますが、一日の大半は食材や献立作成など「モノ」相手の仕事になります。
ヒト相手の仕事が好きな人は気にならないかもしれませんが、私はイレギュラー対応の少ないモノ相手の仕事の方が好きです。
病院勤務の栄養士と比べて栄養指導など人と接する時間も少ないので比較的気楽かもしれません。

勤務時間はほぼ日勤のみで年末年始休暇はあること

私は新卒で給食委託会社に入社して病院の給食室に配属されたのですが、3食365日給食を提供するので早朝勤務も年末年始の出勤もありました。多少の手当てはありましたがそれ以上に寝不足や肌荒れなど体に不調が出たので転職しました。また土日出勤もあるので友人と休日の予定がなかなか合わなかったです。
保育園は基本的に昼食とおやつのみの提供なのでほぼ同じ生活リズムで働けます。日祝日は休みなので家族との予定を調整しやすくなったことは大きなメリットです。

未来のある子どもたちに給食を食べてもらえること

私の中で1番のポイントかもしれません。
病院だと急な「退院」がありえます。昨日まで給食を食べてもらえていた患者さんが翌朝には食べてもらえなくなった、なんてこともありました。介護施設であっても刻み食がミキサー食にダウンすることもあります。
ですが保育園であれば急な「退園」はほぼないですし、離乳食だった子が大人と同程度の普通食に成長することに喜びを感じます。子供の泣き声や叫び声は苦手でも、食事を食べてくれたり目の前で「おいしい」と言ってもらえる。それは大きなやりがいです。

まとめ‐保育園栄養士は本当に「低賃金」なのか

ここまで保育園栄養士の仕事内容やつらい点・良い点をまとめました。
ここからは私の持論で、保育園の栄養士は本当に低賃金なのか考えを書きます。

結論から言うと、まったく不当な低賃金ではないが、もう少しスポットが当たり処遇改善につながる動きはあっていいと思います。

保育園栄養士は病院や介護施設の栄養士と比べて喫食者(子どもや患者さんなど給食を食べてくれる人)に与える影響は小さいと思っています。しょせん一日3食のうち1食しか提供していないのは自明ですから。どれだけ我々が丹精込めて給食を作っても、ほかの2食である朝食と夕食をいつも抜いているとしたらそれは健康な食生活とは言えません。

また子どもに与える影響も、常にそばで見ている保育士のほうが断然大きいですから、実績として評価されにくいこともある程度は仕方ないでしょう。保育園においての一番の主体は子どもと保育士ですから。


とはいえ、保育園の経営に栄養士が不可欠であることもまた事実ですし、離職率の高い業界であるため欠員がでたときのフォロー体制をなかなか整えられず早朝出勤や残業も多いです。
子どもの成長に合わせた調理方法や味つけ、盛り付けなども大切です。マンネリ化はしたくないけれど、大人に比べて使える香辛料や食材に制約がある中で様々な工夫を日々考えています。
また少し専門的な話になりますが、食材の発注量が同じ人数を対象にしていても年度内で変動することも特徴的です。子どもが成長すると離乳食が普通食にアップしたり食べられる量が増えるためです。食材ロスを防ぎつつ限られた給食費の中で適量を発注するように前年度の記録と現場の様子から調整しています。これもある程度の経験を積まないとできません。

大量調理や献立立案は一朝一夕で身につかない専門技能です。衛生管理や献立のアイディアなど気を配ることはたくさんあります。
そのうえで保育士同様に園内行事の用意をしたり土曜出勤もこなすため、残業は多く休日数は少ないのが現状です。


介護・保育関係者の賃金値上げの話題が上るとき、少しだけでも介護士や保育士と一緒の施設で働く栄養士たちのことも気にかけてもらえたらと思います。
そして栄養士の方でこの記事を見てくださった方がいたら、なにか声を上げませんか。SNSで発言したり自治体に処遇改善を求めるメールを出すなど、一緒に何かアクションをおこしませんか。


今回は愚痴っぽい内容になってしまいまい、不快に思われる方がいたら申し訳ありません。
それでもここまで目を通してくださってありがとうございました。